ソイプロテインは生活習慣病の予防に良い?巷で噂の健康効果について管理栄養士が解説
最近、特に女性の間でソイプロテインが人気を博しています。ダイエットや美容だけでなく、生活習慣病の予防など健康にも良いとよくメディアで話題になっているようです。ですが、それは本当なのでしょうか?世の中の健康情報は、十分な根拠をもとに紹介されていないこともしばしば。そこで今回は、ソイプロテインの基本と巷で噂の健康効果の真偽について科学的根拠をもとに検証していきたいと思います。
そもそもソイプロテインってなに?
ソイプロテインとは、大豆を原料にした植物性のプロテインのことで、一般的には大豆から油を絞った後に、たんぱく質を取り出して粉末状に加工したものです。主成分である大豆たんぱく質は、脂質が少なく食物繊維が豊富に含まれていることから、ソイプロテインはダイエットに向いていると言われています。
たんぱく質は、豆類・卵・肉類・魚類などに多く含まれている成分で、筋肉・臓器・皮膚・毛髪などの体を構成する成分、ホルモン・酵素・抗体などの体を調節する機能の成分として重要であり、生命の維持に欠かせません。そのため、たんぱく質が不足すると、成長障害・体力や免疫機能の低下などが起こる恐れがあります。たんぱく質は20種類のアミノ酸という物質でできており、大豆は体に必要なアミノ酸がバランスよく含まれていることから、栄養価が高いと言われています。[1,2]
生活習慣病の予防に役立つって本当?
ソイプロテインの生活習慣病への予防効果について検証するために、世界中でさまざまな研究が行われています。そもそも、なぜソイプロテインと生活習慣病との関連が注目されるようになったのでしょうか。
そのきっかけは、ソイプロテインの原料である大豆の摂取量が多い地域では、さまざまな疾病の罹患率が低いことが見出されたことにあります。昔から大豆を食べる食文化があったのは日本を含むアジアの地域で、欧米諸国にはもともと大豆を食べる習慣がありませんでした。しかし、大豆たんぱく質のコレステロール低下作用に関する研究報告がされたことから、1999年にアメリカ食品薬品局(FDA)がその効果を認めたことで、欧米諸国でも大豆の健康効果が一気に注目され始めたのです。[3]
生活習慣病の中でも大豆たんぱく質との関連がよく研究されている心血管疾患は、日本をはじめ世界で主な死因となっており、特に45歳以上の女性の死亡率は高く、男性を上回ると言われています。主な原因は、喫煙・血液中のコレステロールの過剰・高血圧で、心臓の血管の動脈硬化が進行することが発症の引き金となります。[4,10]
これまでの研究で、大豆たんぱく質は “コレステロールの低下”、”高血圧の予防”に貢献することで、心血管疾患など生活習慣病の予防に役立つことが示唆されています。次にこの2つに対する効果について詳しく確認していきましょう。[5]
コレステロールを下げるって本当?
コレステロールってなに?
コレステロールは、体に存在する脂質のひとつで、細胞膜・ホルモン・胆汁酸を作る材料となっています。生活習慣病の因子として取り上げられているのは、血液中のコレステロールのことで、肝臓にあるコレステロールを体全体に運ぶ役割を持つLDL(悪玉)コレステロールと、体内の血管壁に溜まったコレステロールを肝臓に運ぶ役割を持つHDL(善玉)コレステロールのバランスが健康の鍵を握ります。この2つのバランスが崩れると血液中のコレステロールが過剰となる“脂質異常症”の状態になり、そのままにする動脈硬化を引き起こして心血管疾患を発症する原因となります。[6]
大豆たんぱく質がコレステロールに与える影響
閉経後の女性および高コレステロール血症の成人を対象に行われた43の研究をまとめた報告によると、1日25g(摂取量の中央値)の大豆たんぱく質を6週間(追跡期間の中央値)摂ることによりLDLコレステロール、総コレステロールが減少することが明らかにされました。このことから、大豆タンパク質は、コレステロールを下げるのに役立つことを示唆しています。 [7]
高血圧の予防効果があるって本当?
高血圧ってなに?
高血圧とは、血圧が基準値よりも高い状態のことを言います。自覚症状がほとんどなく、測定をしない限り日常生活の中では気づかないことが多いです。高血圧は動脈硬化の原因のひとつで、心臓では狭心症などの心血管疾患、脳では、脳梗塞、脳出血などの脳血管障害や認知症などの原因になります。[8]
大豆たんぱく質が血圧に与える影響
18〜75歳の成人を対象に行われた25の研究をまとめた報告によると、大豆イソフラボンを含む大豆タンパク質を分離したもの、または大豆食品を使用して、約30gの大豆たんぱく質を摂取すると、正常血圧・高血圧のどちらの場合も血圧が低下することが明らかにされました。特に高血圧の人の低下量が著しく大きく、高血圧の改善にも期待ができることを示唆しています。 [9]
また、閉経後の女性のみを対象とした9つの研究をまとめた報告によると、約25g以上の大豆たんぱく質を含む大豆の粉末またはサプリメントの摂取が、血圧を低下させるという結果が得られました。[10]
どちらの研究でも、大豆たんぱく質のみではなく大豆イソフラボンも一緒に摂取していたことから、結果に大豆イソフラボンの効果が影響している可能性は無視できませんが、大豆たんぱく質が高血圧の予防につながることを示唆しています。
健やかな毎日を送るために、食事のバランスにも目を向けて
ソイプロテインなどを活用することで、忙しい毎日の中でも手軽に不足しがちな栄養素を補充することができます。商品によっては、たんぱく質以外の栄養素を配合しているものもあるので、ご自身の食生活や目的に合ったものを選べるといいですね。
ただし、生活習慣病を予防して健康な生活を送るためには、食事内容を見直すことが大切です。食べ過ぎや偏った食事内容にならないように気をつけて、食事のバランスを意識しましょう。
【参考文献】
[1]厚生労働省, 日本人の食事摂取基準(2020年版)
[2]文部科学省, 日本食品標準成分表2020年版(八訂)
[3]高塚直能, 血清脂質および動脈硬化性疾患に対する大豆の影響, オレオサイエンス, 第9巻 第7号(2009)
[4]厚生労働省,e-ヘルスネット/狭心症・心筋梗塞などの心臓病(虚血性心疾患)
[5]T Chalvon-Demersay, et al. A Systematic Review of the Effects of Plant Compared
with Animal Protein Sources on Features of Metabolic Syndrome. J Nutr, 2017 ;147(3):281-292.
[6]厚生労働省, e-ヘルスネット/コレステロール
[7]SB Mejia, et al. A Meta-Analysis of 46 Studies Identified by the FDA Demonstratesthat Soy Protein Decreases Circulating LDL and Total Cholesterol Concentrations inAdults. J Nutr, 2019;149(6):968-981.
[8]厚生労働省, e-ヘルスネット /高血圧
[9]JY Dong, Effect of soya protein on blood pressure: a meta-analysis of randomised controlled trials. Br J Nutr, 2011 ;106(3):317-26.
[10]T Kou, et al. Effect of soybean protein on blood pressure in postmenopausal women: a meta-analysis of randomized controlled trials. Food Funct, 2017 ;8(8):2663- 2671
プロフィール
短大を卒業後、病院で栄養士として働きながら管理栄養士免許を取得。その後は病院の管理栄養士やコールセンターなどの経験を経てライターとして活動を始める。科学的根拠をもとにダイエットや生活習慣病などを中心としたヘルスケアコラムを執筆している。
公式ブログ「幸せ食ライフ|管理栄養士 一ノ木菜摘ブログ」:
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