女性に嬉しい大豆イソフラボン。誰もが効果を期待できるわけではないって知ってた!?
大豆製品に含まれている大豆イソフラボンは、女性に嬉しい成分であることが知られており、様々な健康食品が販売されています。ですが、具体的にどのような効果があるのかなど、意外と知られていないこと も多いようです。そこで、今回は大豆イソフラボンについて、どのような効果が期待されているのか、科学的根拠をもとに管理栄養士が解説していきます。
そもそも大豆イソフラボンって?
大豆イソフラボンが持つ効果として、“更年期障害の緩和” “骨粗鬆症の予防” “乳がん予防”がよくメディアで取り上げられています。しかし、これらに対する効果は本当にあると言えるのでしょうか?これまでの研究報告をもとに真偽を検証していきたいと思います。[1]
更年期障害の緩和に働くのは本当?
そもそも更年期障害ってなに?
更年期障害とは、男女の性ホルモンの分泌量が低下することで引き起こされる自律神経失調症に似た症候群のことを言います。女性のイメージが強いですが、男性にも更年期障害はあり、40歳代以降に加齢によって、さまざまな体調不良や情緒不安定などの症状が現れます。女性の場合は、閉経期前後にエストロゲンの分泌が急激に減少することによって、のぼせや顔の火照り、動悸や息切れなどの身体的症状やイライラや不安感、無気力感などの症状が現れる傾向があります。
大豆イソフラボンが症状を緩和する?
これまでは症状の治療にホルモン療法を行うことが推奨されていましたが、日本人が北米の女性に比べて症状が少ないことや日本人のイソフラボンの摂取量の多さから、大豆イソフラボンが症状を緩和するのに役立つのではないかと注目されました。
更年期の女性を対象にした、大豆イソフラボンのサプリメントの摂取による、ほてり症状の緩和効果を検 証した複数の研究をまとめた報告で、ほてりの症状が現れる頻度が減少し、症状の重さも減少することが示唆されました。研究ごとに条件が異なり、大豆イソフラボンの摂取量は30〜135mg、摂取期間は6週間〜24ヶ月と大きく 差があったため、どの程度の量・期間の摂取で効果が期待できるかはまだはっきりしていません。ですが、大豆イソフラボンがほてり症状の軽減をはじめとした、更年期障害の緩和に役立つ可能性があるとは言え るでしょう。[2,3]
骨粗鬆症の予防の働きがあるのは本当?
そもそも骨粗鬆症ってなに?
骨粗鬆症とは、骨形成と骨吸収のバランスが崩れて、骨量が減少して骨折しやすくなる状態のことを言います。女性の場合、閉経後にエストロゲンの分泌が減少することで骨吸収の加速が起こり、骨粗鬆症のリスクが高くなることが明らかにされています。そこで、大豆イソフラボンの摂取により、骨粗鬆症の予防 ができるのではないかと期待されています。
大豆イソフラボンが症状を緩和する?
更年期の女性における、大豆イソフラボンの摂取による腰椎と大腿骨頸部の骨密度への影響を調べた複数の研究をまとめた報告によると、大豆イソフラボンの摂取が骨密度を維持し、骨吸収を抑制する可能性があることが示唆されました。この報告も研究ごとに条件が異なり、大豆イソフラボンの摂取量は4.4〜300mg、摂取期間は3ヶ月〜15ヶ月と大きく差があったため、どの程度の量・期間の摂取で効果が期待できるかは、まだはっきりしていません。また、それらの研究の中には運動や微量栄養素の補給など、骨の健康に関わる別の要素の影響も同 時に見ているものがあり、大豆イソフラボンの摂取による効果ではない可能性があります。関連の詳細を 明らかにするためには、今後のさらなる研究に期待したいところです。 [4]
乳がんを予防すると言われているのは本当?
知っておきたい!乳がんの基礎知識
乳がんは、乳房にはりめぐらされている乳腺に悪性の腫瘍ができたもので、40〜50歳代の女性に多いがんです。詳しいことは明らかになっていませんが、エストロゲンの分泌ががんの発生に関係していると言われています。
大豆イソフラボンが予防に貢献する?
更年期の女性を対象に大豆イソフラボンの摂取と乳がんリスクとの関連を調べた複数の研究をまとめた報 告によると、大豆イソフラボンは乳がんのリスクに影響を与える可能性があるようですが、その予防効果に関してはまだはっきりとしないようです。 興味深いことに、アジア人の集団ではリスクの低下が見られましたが、欧米人の集団では変化が見られな かったと報告されています。これは、欧米人がアジア人に比べて大豆イソフラボンの摂取量が少ないこと、さらにアジア人は摂取している期間が総合的に長いことが関連していると推測されます。[5,6]
誰でも効果を期待できるわけではない?
実は先ほど紹介したような効果は、大豆イソフラボンが人の体内でエクオールに変換されるこ とで発揮されることが明らかにされています。エクオールは、大豆イソフラボンのうち “ダイゼイン”が腸内細菌によって代謝されることで生み出される成分です。マウス、羊、牛、ヤギなど 草食寄りの食事をしている動物はエクオールを産生できることが明らかにされていますが、人間では一部の人にしか産生されないことがわかっています。 疫学研究の結果をもとに全世界のエクオール産生者の割合をまとめてみると、日本、中国、台湾などの大豆の食習慣がある地域では約50%であり、その他の欧米およびオーストラリアは約 30%でした。先ほどの乳がんの研究で欧米人に効果が見られなかったのは、エクオールの産生が関連していることも考えられます。
また、エクオールの産生には、男女差、遺伝的要素は関係ありませんが、食物繊維・大豆・海 藻などの摂取の関係が報告されています。日本では、大豆の摂取量および整腸作用のある食物繊維等が不足しがちな若年層では、エクオールを産生できる人の割合が低下しているようです。残念ながら、エクオールが産生されるのは腸内にエクオール産生菌を持っている人に限定されるため、エクオール産生菌を持っていない人は、大豆イソフラボンの健康メリットを享受できない可能性があると指摘されています。[7]
大豆イソフラボンのパワーを享受してより健やかな生活を送るために
大豆イソフラボンは、更年期症状の緩和や骨粗鬆症の予防など、女性の健やかな生活を送る手 助けをしてくれることが明らかになってきている機能性成分の1つです。大豆イソフラボンの恩恵に与れるように、日頃の食生活に意識を向け、大豆のある食生活を送っていきましょう。
【参考文献】
[1]内閣府食品安全委員会, 大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A
[2]厚生労働省, e-ヘルスネット/更年期障害
[3]K Taku, et al. Extracted or synthesized soybean isoflavones reduce menopausal hot flash frequency and severity: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Menopause, 2012 ;19(7):776-90.
[4]MNT Lambert, et al. A systematic review and meta-analysis of the effects of isoflavone formulations against estrogen-deficient bone resorption in peri- and postmenopausal women. Am J Clin Nutr, 2017 ;106(3):801-811.
[5]日本医師会ホームページ, 健康の森/乳がん
with Animal Protein Sources on Features of Metabolic Syndrome. J Nutr, 2017 ;147(3):281-292.
[6]M Chen, et al. Association between soy isoflavone intake and breast cancer risk for pre- and post-menopausal women: a meta-analysis of epidemiological studies. PLoS One,2014 ;9(2):e89288.
[7]内山成人, 大豆由来の新規成分エクオールの最新知見, 日本食品科学工学会誌, 62 巻 (2015) 7 号
プロフィール
短大を卒業後、病院で栄養士として働きながら管理栄養士免許を取得。その後は病院の管理栄養士やコールセンターなどの経験を経てライターとして活動を始める。科学的根拠をもとにダイエットや生活習慣病などを中心としたヘルスケアコラムを執筆している。
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