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「10センチ切りますね」その髪、何か月分?

美容室の10センチから考える、髪と毎日の食事

美容室で、「傷んだ毛先を10センチほど」とお願いする。

何か月もかけて伸ばした髪が、ほんの数分で床に落ちていきます。

では、床に落ちたその10センチが伸びるまでには、どれくらいの時間がかかっているのでしょうか。

髪は平均すると、ひと月に約1センチ伸びます[1]。つまり、10センチ分の髪がつくられるには、およそ10か月かかる計算です。数分で切り落とした10センチには、それだけの月日が詰まっているのです。

髪にはこうした時間差があるので、体に起きたことが、少し遅れて髪に出てくることもあります。

たとえば、夏に向けて急に食事を減らし、体重を落としたとします。目標を達成して食事も元に戻したころ、シャンプーのたびに抜ける髪が増えた気がする。そのとき、数か月前の食事制限のせいかもしれない、と考える人はあまりいないでしょう。

10センチ伸びるにはおよそ10か月

いま見えている髪は、すでにできあがった髪

髪の主成分は、ケラチンというタンパク質です。ただ、目に見えている髪はすでにできあがった部分で、血液は通っていません。ですから、何を食べても、傷んだ毛先が内側から直ることはありません[1]。

髪がつくられるのは頭皮の下

新しい髪は、頭皮の下の毛根でつくられています。毛根には血管が通っているので、食事でとったタンパク質も、アミノ酸という形で運ばれてきます。新しい髪は、それを材料にしてつくられるのです。

トリートメントで手入れできるのはいまある髪ですが、食事がかかわるのは、これから伸びてくる髪のほうです。だから、食べるものを変えても、髪ですぐに分かるわけではありません。

抜け毛が増えるのは、数か月たってから

米国皮膚科学会によると、大きく体重を落としたあとなどに、抜け毛が一時的に増えることがあります。しかも、抜け毛が増えたと感じるのは、たいてい数か月たってからだそうです[6]。急なダイエットやタンパク質不足で髪が抜けやすくなることは、栄養と髪の研究でもよく知られています[2]。

夏にダイエットをして、秋になってからシャンプーのときに気づく。これだけ間があくと、ダイエットのせいだとはなかなか思いつきません。

こうした抜け毛はたいてい一時的なもので、半年から9か月ほどたてば元に戻ります[6]。ただ、抜け毛の原因は食事だけではありませんし、タンパク質を多くとったからといって髪が増えるわけでもありません[2]。まずは、食事を極端に減らさないことが大切です。

髪を育てる土台は、体全体の調子

髪は、材料さえあれば育つわけではありません。髪をつくる毛根も体の一部なので、体全体の調子の影響を受けます。たとえば円形脱毛症は、本来は体を守るはずの免疫が毛根を攻撃してしまうことで起こると考えられていて、髪と免疫が深く結びついていることを示す例のひとつです[3]。

その免疫のバランスに、実はおなかの中の腸内細菌がかかわっています。私たちが食べた食物繊維は、腸の中で腸内細菌の働きを受けて、免疫の調節に役立つ物質へと変わっていくのです[4]。つまり食物繊維をとることは、腸内細菌を通して、免疫を含めた体全体の調子を支えることにつながっています。

もちろん、食物繊維をとればそれで髪が増える、というわけではありません。けれど、腸の調子を整えて体全体を健やかに保つことは、髪にとっても大切な土台になります。

タンパク質と一緒に、食物繊維も

大豆には、髪の材料になるタンパク質と、腸の中で働く食物繊維が、どちらも含まれています。

ところが、この食物繊維は、ふだんの食事では意外と足りていません。20〜30代女性の目標量は1日18グラム以上とされていますが、国の調査では、20代女性の平均摂取量は14.6グラム、30代女性でも15.4グラムでした[7][8]。平均だけで一人ひとりの過不足までは分かりませんが、目標まで、あと3グラムほど届いていない計算になります。

「私の完全美容食」は、北海道産の大豆を丸ごと使い、国産の雑穀と組み合わせています。以前の記事でも触れたように、大豆からタンパク質だけを取り出して濃くしたプロテインでは、食物繊維はあまり残りません。丸ごと使っているからこそ、タンパク質と一緒に食物繊維もとれるのです。黒糖プレーン味なら、1食20グラム(85kcal)でタンパク質が5.7グラム、食物繊維が2.9グラムとれます[5]。先ほどの「あと3グラム」に近い量を、一杯でとれることになります。

体重が気になって食事を軽くしたい時期ほど、髪の材料になるタンパク質や食物繊維まで、一緒に削ってしまいがちです。そんなときの朝食や間食に一杯加えれば、カロリーを大きく増やさずに、タンパク質と食物繊維を補うことができます。これで髪が変わる、抜け毛が防げる、というものではありません。けれど、数か月先の髪のために、減らしたくないものを減らさずにおく手段にはなります。

次の10センチのために

美容室の床に落ちた10センチは、つくられるまでに10か月ほどかかる長さでした。いまも頭皮の下では新しい髪がつくられていて、これからの10か月で、また10センチほどが伸びていきます。その材料になるのは、これからの毎日の食事です。

特別なことを一日だけ頑張るよりも、食事を極端に減らさず、タンパク質と一緒に食物繊維もとって、体全体の調子を整えておくほうが、髪にとっては大事なのかもしれません。次に美容室へ行く日のことを思い浮かべながら、今日の一食を選んでみてください。

【参考文献】
[1]InformedHealth.org. In brief: What is the structure of hair and how does it grow? NCBI Bookshelf.

[2]Guo EL, Katta R. Diet and hair loss: effects of nutrient deficiency and supplement use. Dermatol Pract Concept. 2017;7(1):1–10.

[3]Bertolini M, McElwee K, Gilhar A, et al. Hair follicle immune privilege and its collapse in alopecia areata. Exp Dermatol. 2020;29(8):703–725.

[4]Mann ER, Lam YK, Uhlig HH. Short-chain fatty acids: linking diet, the microbiome and immunity. Nat Rev Immunol. 2024;24:577–595.

[5]American Academy of Dermatology Association. Do you have hair loss or hair shedding?

[6]「私の完全美容食」公式サイト「黒糖プレーン味」栄養成分表示(1食20gあたり)

[7]厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書. 2024.

[8]厚生労働省「令和5年国民健康・栄養調査報告」第1表の3 栄養素等摂取量.

※本稿は一般的な栄養情報を扱うもので、診断や治療、発毛・脱毛予防・免疫への効果を保証するものではありません。抜け毛が急に増えた場合や長く続く場合は医療機関へご相談ください。

プロフィール

佐藤 洋平
医学博士 佐藤洋平
筑波大学にて国際政治学を学んだのち、飲食業勤務を経て、理学療法士として臨床・教育業務に携わる。人間と脳への興味が高じ、富山大学大学院でコミュニケーションに関わる脳活動の研究を行う。2012年より脳科学に関するリサーチ・コンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表として活動。研究者からプライム上場企業を対象に学術支援業務を行う。研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。日本最大級のサイエンスブログ、Labo Brainsでは「シュガー先生の脳科学コラム」を執筆、脳科学に関する情報を広く提供している。