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「健診で『貧血なし』。鉄も足りている?」

結果表には映りにくい、体の中の「鉄の蓄え」

健康診断の結果が届く。

血色素量(ヘモグロビン)は基準範囲内。判定欄には「貧血なし」。

その一行を見て、「鉄も大丈夫」と安心する。そう思うのも無理はありません。

ところが結果表を見返すと、「鉄」という項目は見当たらない。では健診は、何を見て「貧血なし」と言っているのでしょうか。

答えは、体にある鉄の総量ではなく、主にヘモグロビン。体の鉄が減り始めてから「異常」として表れるまでには、時間差があります。

健診が見ているのは、鉄の「全部」ではない

ヘモグロビンは、赤血球の中で酸素を運ぶタンパク質。その材料に鉄が使われます。ヘモグロビンが一定より低くなると貧血と判定されます。けれど、値が正常だからといって、体内の鉄が十分だとまでは言い切れません。

なぜなら、体には「いま働いている鉄」とは別に、すぐには使わない鉄を蓄えておく仕組みがあるからです。

売り場が満たされているあいだに、倉庫は減る

蓄えられた鉄の状態を知る手がかりのひとつが、フェリチンです。食事から入る量より、月経などで失う量が多い状態が続くと、まず貯蔵鉄が減り、その後、血液へ回せる鉄が減って、最後にヘモグロビンが下がる。鉄不足は、このように段階を追って進みます。[1]

店頭の商品を切らさないために、バックヤードの在庫を出している場面を想像すると分かりやすいかもしれません。売り場だけを見れば、商品は並んでいる。でも倉庫の棚は、少しずつ空いていく。ヘモグロビンが正常でも貯蔵鉄が少ない状態があり得るのは、このためです。

「貧血なし」は、もちろん良い知らせです。ただ、それだけで「鉄は十分」とまでは言えません。分かるのは、いまのところヘモグロビンが保たれている、ということです。

鉄は、貧血になる前に「蓄え」から減っていく

月経のある女性は、出ていく鉄も多い

鉄は、体の中でつくることができません。食事から取り入れる一方で、日々わずかに失われ、月経があれば損失はさらに増えます。[1]

月経のある20〜30代女性に勧められている鉄は、一日およそ10mg。一方、国の調査では、同年代女性の平均摂取量は6mg台でした。[2][3]

平均値だけで、個人の不足を診断することはできません。吸収率にも月経量にも差があります。それでも、「毎月出ていく」という条件があるのに、鉄を含む食品が食事にほとんど登場しない。そんな日が重なれば、体は蓄えていた鉄を使い始めます。鉄の蓄えが減る話は、決して他人事ではありません。

月経のある20-30代女性では、目安と平均に差がある

「貧血ではない疲れ」の、その先を調べた研究

ヘモグロビンは正常なのに、原因のはっきりしない疲れがあり、フェリチンが低かった女性を対象にした研究があります。参加者を分け、片方には鉄剤、もう片方にはプラセボを使ってもらったところ、鉄剤を使ったグループのほうが疲労感は大きく改善しました。[4]

ここで大切なのは、「疲れたら鉄」という結論ではありません。この研究の対象は、検査でフェリチンが低いと確認された女性です。疲れにはさまざまな原因があり、この研究を根拠に、食品やサプリメントにも同じ効果があるとは言えません。

それでも、ヘモグロビンが正常だからといって、鉄の話はそこで終わりではないことが分かります。

自分の蓄えは、症状だけでは決められない

フェリチンは血液検査で調べられます。ただし、炎症などの影響でも値が変わるため、フェリチンだけで自己判断はできません。[5]

疲れや息切れ、動悸が続く、月経量が多いなど、気になることがある場合は医療機関へ。必要な検査を相談し、原因を確かめることが先です。高用量の鉄サプリメントを自己判断で続けるのも避けたいところです。[1]

では、症状が出るまで食事では何もできないのかというと、もちろんそうではありません。

変えるのは、「鉄の日」ではなく、いつもの一食

朝はコーヒーとパン。昼は麺。間食は甘いもの。夕食で肉や魚を食べて、ようやく鉄を含む食品が登場する。忙しい日ほど、そんな一日になりがちです。

毎食を完璧にする必要はありません。まずは、赤身の肉や魚、大豆製品、小松菜など、鉄を含むものが一日のどこにあるかを見てみる。植物性食品に含まれる鉄は、野菜や果物などビタミンCを含む食品と組み合わせると、吸収されやすくなります。[2]

特別な「鉄の日」をつくるより、いつもの食事から鉄が消えたままにならないようにする。そのほうが、毎日の選び方としては現実的です。

朝食や間食を、「鉄のある時間」に変える

「私の完全美容食」には、1食20gあたり1.62mgの鉄が含まれています。[6] これだけで一日の推奨量を満たすものでも、鉄欠乏を治療するものでもありません。

けれど、朝食が飲み物だけになった日や、間食が甘いものだけになりそうな日に一杯を選べば、鉄がほとんどなかった時間を「鉄のある時間」に変えられます。果物を添えれば、ビタミンCも一緒にとれます。

一杯ですべてを解決するのではなく、食事全体の一部として、続けやすい場所に置く。役割がはっきりしているからこそ、毎日の習慣にしやすくなります。

変えるのは、「鉄の日」ではなく、いつもの一食

「貧血なし」の、その先を見る

もう一度、健康診断の結果に戻ります。ヘモグロビンが基準範囲内なのは、もちろん安心できる材料です。ただ、それだけで、体に蓄えられている鉄の状態まで分かるわけではありません。

だからこそ、健診の結果だけを見るのではなく、普段の食事にも少し目を向けてみる。肉や魚、大豆製品などをきちんと食べられているか。朝食や間食が、飲み物や甘いものだけで終わる日が続いていないか。

毎食を完璧にする必要はありません。忙しくて食事が簡単になってしまうときに、鉄を含むものをひとつ加える。「私の完全美容食」も、そんな毎日の選択肢のひとつです。

健診で「貧血なし」だったからといって、鉄のことまで気にしなくていいとは限りません。まずは、いつもの朝食や間食に「鉄のある時間」をひとつ増やしてみるのはどうでしょうか。

【参考文献】
[1]厚生労働省 eJIM「鉄[サプリメント・ビタミン・ミネラル—医療者]」

[2]厚生労働省 e-ヘルスネット「鉄」

[3]厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査報告」

[4]Vaucher P, et al. Effect of iron supplementation on fatigue in nonanemic menstruating women with low ferritin: a randomized controlled trial. CMAJ. 2012;184(11):1247–1254.
[5]World Health Organization. WHO guideline on use of ferritin concentrations to assess iron status in individuals and populations. 2020.
[6]「私の完全美容食」公式サイト 栄養成分表示

※本稿は一般的な栄養情報を扱うもので、診断や治療に代わるものではありません。

プロフィール

佐藤 洋平
医学博士 佐藤洋平
筑波大学にて国際政治学を学んだのち、飲食業勤務を経て、理学療法士として臨床・教育業務に携わる。人間と脳への興味が高じ、富山大学大学院でコミュニケーションに関わる脳活動の研究を行う。2012年より脳科学に関するリサーチ・コンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表として活動。研究者からプライム上場企業を対象に学術支援業務を行う。研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。日本最大級のサイエンスブログ、Labo Brainsでは「シュガー先生の脳科学コラム」を執筆、脳科学に関する情報を広く提供している。